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「あんこニブ」という新商品を考えてみた。 ―「捨てられていたもの」に名前をつける。そこからキャリアモデル開発は始まる。

「あんこニブ」という新商品を考えてみた。 ―「捨てられていたもの」に名前をつける。そこからキャリアモデル開発は始まる。

ある和菓子店のオーナーから、こんな話を聞きました。

「こしあんを作ると、小豆の皮が残るんです。その皮を使って、フィナンシェを作っているんですよ」

その店では、あんこも、どら焼きも、あんみつも、一人の職人が丁寧に手づくりしています。

こしあんをつくるために小豆を炊き、漉す。
すると当然、皮が残ります。

その皮をすぐに大量加工するわけではありません。
少しずつ貯めて、ある程度の量になったところで、フィナンシェを焼く。

大量生産とはまったく逆です。
けれど、この話を聞いた瞬間、私はむしろそこに大きな可能性を感じました。

「これは余りものではなくて、まだ名前のついていない“素材”なのではないか」

そう思ったのです。

「小豆の皮」ではなく、「あんこの、その先」

最初に考えたのは、アップサイクルや食品ロスという言葉ではありませんでした。

もちろん、これまで捨てられていたものを活かすという意味では、とても意義のある取り組みです。

でも、お菓子を買う人が最初に感じたいのは、おそらく「社会的に正しいかどうか」ではありません。

「なんだろう、これ」
「食べてみたい」
「おいしそう」

そこから始まるほうが自然です。
そこで頭に浮かんだのが、カカオニブでした。

カカオニブという言葉には、どこか素材感があります。

少し粗く、香ばしく、粒の存在感があって、それ自体が一つの食材として認識されています。

だったら、あんこをつくる工程から生まれた小豆の皮も、単に「小豆の皮」と呼ぶのではなく、何か新しい名前を与えられないだろうか。

そこで浮かんだのが、

「あんこニブ」

でした。

もちろん、カカオニブと小豆の皮は同じものではありません。
「あんこニブ」は、そこから着想した私たちなりの新しい呼び名です。
こしあんを作った、その先に生まれる素材。
ただの副産物ではなく、香ばしさや食感を持った、もう一つの「あんこの素材」。

そう捉え直すと、一気に世界が広がって見えました。

フィナンシェの商品名を考えていたはずが、素材の名前を考え始めていた

オーナーは、商品名として「地域名+フィナンシェ」を検討していました。地域のお菓子として、とても分かりやすい名前です。

でも、話を聞けば聞くほど、この商品の価値は「地域名で作られている」ということだけではないように感じました。

この店では、自分たちで小豆を炊いています。
自分たちでこしあんを作っています。
そして、その工程で生まれた小豆の皮まで、自分たちの手でお菓子にしています。

だったらこれは、

「町にあるフィナンシェ」ではなく、
「あんこ屋だから生まれたフィナンシェ」

なのではないか。

そう考え始めると、商品の見え方が変わります。

たとえば、

地域名+ あんこNIBフィナンシェ

という名前にする。

そして、

「あんこの、その先。」

という言葉を添える。

さらに「あんこニブ」という名前をフィナンシェだけに閉じ込めなければ、

あんみつに「追いあんこニブ」をかける。
どら焼きに少し加えてみる。
アイスに合わせてみる。
将来は別の焼き菓子にしてみる。

一つの商品開発だったものが、いつの間にか新しい素材、新しいシリーズ、新しい店の物語へと変わっていきます。

私は、ここにキャリアモデル開発とよく似た構造を感じています。

キャリアモデル開発は「職業を考えること」だけではない

私たちが行っているキャリアモデル開発という言葉を聞くと、
「新しい職業を考えることですか?」
と言われることがあります。

それも一つです。

ただ、本質はもう少し手前にあります。
私たちが最初に見るのは、

その人や、その会社や、その場所に、すでに何があるのか。

です。
本人にとっては当たり前すぎて価値だと思っていないもの。
昔からやっているので、わざわざ説明していないこと。
面倒だから無くしたいと思っている工程。
誰も注目していない副産物。
人から見ると少し変わっている経験。
それらを一度、違う角度から眺めてみます。
今回でいえば、「こしあんを作ると皮が残る」という事実です。

これを、

「廃棄物が発生している」

と見ることもできます。

でも、

「こしあんを手作りしている店だからこそ、毎回生まれる固有の素材がある」

と見ることもできます。

事実は同じです。
意味だけが変わっています。

キャリアモデル開発では、この意味の変換をとても大切にしています。

価値は「新しく作る」だけではなく、「見つける」こともできる

新しい事業を考えよう。
新しい商品をつくろう。
新しいキャリアをつくろう。
そう考えると、人はつい「今までにない何か」をゼロから生み出そうとします。

でも、本当に面白いものは、すでに目の前にあることがあります。
使われていなかったもの。
言葉になっていなかったもの。
組み合わされていなかったもの。

「あんこニブ」も、まさにそうでした。

小豆の皮は、突然生まれたわけではありません。
昨日もあった。
一年前もあった。
ずっと、こしあんを作るたびにそこにあった。
変わったのは、小豆の皮ではありません。

私たちの見方です。

そこに名前をつけ、意味をつけ、別のものと結びつける。
すると、それまで「残ったもの」だった存在が、「これから育てていくもの」に変わります。

これは、人のキャリアについて考えるときも同じです。

「できること」より、「まだ使われていないもの」を見る

その人が持っている資格。

これまで担当してきた仕事。
所属していた会社。
もちろん、それらも重要です。
でも、それだけを見ていたら、その人の未来は過去の延長線上にしか生まれません。
私たちはむしろ、

「なぜか人からいつも相談される」

「趣味なのに異常に詳しい」

「仕事では評価されないけれど、自分ではずっと続けている」

「何度も失敗したからこそ分かることがある」

「本人は普通だと思っているけれど、人から見ると珍しい」

そんな部分に目を向けます。
今回の「小豆の皮」と同じです。
一見すると主役ではない。

でも、見方を変えると、その人にしかない資源になる。
そして、その資源に名前をつけ、別の分野と掛け合わせ、市場や社会との接点を考えていく。

それが、私たちの考えるキャリアモデル開発の一つの姿です。

大量につくれないことも、弱点とは限らない

今回、もう一つ印象的だったことがあります。
この店では、オーナーが一人でお菓子をつくっています。
だから「あんこニブ フィナンシェ」は、工場のようには量産できません。

こしあんを作らなければ、小豆の皮も生まれません。
皮がある程度貯まってから、フィナンシェを焼く。
普通の商品企画なら、

「安定供給できない」
「大量生産できない」

という弱点として捉えてしまうかもしれません。

でも私は、ここにも物語があると思いました。

「こしあんを作った分だけしか、生まれないフィナンシェ。」

これは欠点でしょうか。
それとも価値でしょうか。
おそらく、見せ方次第です。

いつでも棚いっぱいに並んでいるお菓子ではない。
今日はあるかもしれない。
今日は売り切れているかもしれない。
でも、それは職人が本当にあんこを作っている証でもある。

そう考えると、「大量につくれない」という制約まで、商品の個性になっていきます。

キャリアモデル開発でも、同じことが起こります。
弱みだと思っていたこと。
遠回りだと思っていた経験。
制約だと思っていた生活条件。

それを消すのではなく、

「その条件だからこそ、どんなモデルなら成立するだろう」

と考える。

すると、一般的な正解とは違う、その人固有の答えが出てくることがあります。

「あんこニブ」は、商品開発であると同時に、小さなキャリアモデル開発だった

今回、私はフィナンシェを考えていました。

でも途中から、
素材を考え、
名前を考え、
物語を考え、
お店の強みを考え、
地域との関係を考え、
将来の商品展開まで考えていました。

一つの商品から、役割や事業や世界観が枝分かれしていく。

これは私たちが普段、人のキャリアを考えるときに行っていることと、とてもよく似ています。

人にも企業にも、まだ名前のついていない可能性があります。
それは、目立つ場所にあるとは限りません。

むしろ、

「こんなもの、価値ありますか?」

と言われるような場所に隠れていることがあります。
今回でいえば、それが小豆の皮でした。

私たちの仕事は、その中にある可能性を見つけ、

「これ、こう見たら面白くないですか?」

と少し角度を変えてみることなのかもしれません。
そこから、新しい商品が生まれる。
新しい仕事が生まれる。
新しい役割が生まれる。
そして、ときには新しい市場まで生まれる。

「あんこニブ」が本当に名物になるかどうかは、わかりません。
この名前が採用されるかもわかりません(笑)

でも、

これまで名前のなかったものに名前をつけた瞬間、未来の選択肢が一つ増えた。

それだけでも、とても面白い出来事だと私は思っています。

あなたの仕事にも、まだ名前のついていない価値が眠っているかもしれません。

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嶋村 ユミ

一般社団法人キャリアモデル開発センター品川代表理事/品川センター長

2023年キャリアモデル開発センター品川を創業。生まれも育ちも東京品川で、現在も品川在住。就職氷河期に商社に就職。「普通のOL」として、総務、人事、経理、秘書、営業事務などを経験した後、ひょんなことからISPへ転職。その後キャリアモデル開発に出合い、仕事=お金だけではないと知り、人生で何が大切かを見直す。総合人材サービス業を経て、「働くモヤモヤ」の解消に、地域のキャリア相談所として取り組んでいく。一緒にあなただけのキャリアモデルを作りませんか。

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